Dislocation / Masayuki Takayanagi

高柳昌行のアングリー・ウェイブスというと、高柳のギター、井野信義のベース、山崎弘(現:比呂志)のドラムスというトリオの印象が強いが、時には違う編成でもやっていたようで、この1983年12月26日、彼らが拠点にしていた西荻窪「アケタの店」でのライヴではベースではなくなぜかピアノが入っている。ビバップ/ハードバップ/ボサノヴァ的な音楽をやるときやトリスターノの音楽を踏襲したセカンド・コンセプトの時代にはピアノやエレピが入っていたが、この時期いわゆるフリージャズの文脈でピアノを入れて演奏したことがあったんですねえ。私は最近まで知りませんでした。CDのライナーノーツによれば、5回だけピアノ入りでやったことがあるらしい。

年末だし(JINYA DISCのウェブサイトやCDのバックインレイには12月26日とあり、一方帯やライナーには11月26日と書かれているのだが、それにしては客が少なすぎるのでたぶん12月ではないか)、インターネットも無い時代に音楽雑誌等でも全く告知は無かったそうで、最後の拍手から推定するとおそらく客はほとんどいなかったのではないかと思うが、これは凄まじい演奏だ。高柳自身も自ら録音したテープに「○」「OK」と書き込んでいたらしく、本人も満足した演奏だったのだろう。音質はややこもり気味だがそんなに悪くはない。

ピアノは安田芙充央で当時は29歳、国立音大を出ていて後年ドイツへ渡り現代音楽のピアニスト・作曲家として活躍した人のようだが、ここでは完全にいわゆるフリージャズ・ピアノのマナーで弾き倒している。原田依幸ぽいスピード感もあればストライド等も繰り出すデイヴ・バレルっぽい多芸さも持ち合わせていて、当時50歳の高柳とは20歳以上離れているが物怖じせず正面からぶつかっている。ギターもピアノも複音楽器なので基本的にジャズで共演は難しいと思うのだが、高柳はあまりギターらしからぬ演奏なので特に問題なかったようだ。テンポ以外は特に事前に打ち合わせることもなくいきなり始めていたらしいが、4曲入っているなかで個人的にはTwoが最も興味深かった。高柳の誘導なのか安田の挑発なのか分からないが、フリーなんだけどブルーズっぽいことをやっているのですね。現状音楽配信には無いようだが、もっと広く知られてしかるべき音源だと思う。

ところで安田のウェブサイトを見ていたら、「上海バンスキング」で吉田美奈子の「レイジーボーンズ」の伴奏のピアノを弾いていたという話があってたまげた。私はあの演奏が好きで、子どもの頃CDを図書館で借りて毎日のように聞いていたのである。この人だったのか。

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